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・実家の段差が危ないけれど、親は「まだ大丈夫」と言う
・工事代は誰が出すのか、兄弟にどう切り出せばいいのか
・次の帰省の3日間で終わらせられるのだろうか
離れて暮らす親の家をバリアフリーにするとき、実際につまずくのは金額ではありません。
現場で圧倒的に多いのは、家の所有者・介護保険の被保険者・工事の契約者・お金を出す人・連絡窓口が、全部ちがう人になっていることから起きるすれ違いです。
親は「そんな工事は頼んでいない」、子は「その追加は聞いていない」、兄弟は「勝手に親のお金を使った」。別々の方向から、同時に話が出てきます。
実家のバリアフリーで先に決めておく3つ
・工事の予算を、家族の中で先に決める
・介護保険を使う工事は、絶対に先に着工しない
・工事内容と追加費用を最終決定する人を、ひとりに決める
この記事では、リフォーム会社で働く建築士の目線で、遠くに住む子が実家のバリアフリーを進めるときの手順をまとめます。
費用の目安、家族の立場の整理、親が納得する入口、帰省に合わせた段取りの順にお伝えします。最後まで読んでいただければ、次の帰省で何から手を付ければいいかが決まります。
親の実家のバリアフリーリフォーム費用【箇所別の早見表】

まず金額の全体像です。工事費込みで、現場でよく出す価格帯を並べます。
| 工事の箇所 | 費用の目安(工事費込み) | 介護保険 |
|---|---|---|
| 手すりの取り付け(1本) | 3万円前後〜 | 対象になりやすい |
| 敷居の撤去・段差の解消 | 3万〜10万円 | 対象になりやすい |
| 玄関スロープの設置 | 30万円〜 | 一部が対象 |
| 玄関ドアの交換(開き戸) | 40万円〜 | 対象外が多い |
| 玄関ドアの交換(引き戸) | 100万円前後 | 扉の取り替えは一部対象 |
| 浴槽の交換 | 30万円〜 | 対象外が多い |
| ユニットバスごとの交換 | 100万円〜 | 床の段差解消など一部が対象 |
介護保険の住宅改修を使えば、対象の工事は自己負担が1〜3割になります。
支給限度基準額は原則20万円で、所得に応じて7〜9割が給付されます。20万円の工事なら、自己負担は2万円から6万円ほどという計算です。
ここを勘違いする方がとても多いのですが、20万円はあくまで「住宅改修費の支給限度基準額」であって、20万円でバリアフリー工事一式ができるという意味ではありません。浴室をまるごと替えるような工事は、普通にこの枠を超えます。
箇所ごとの詳しい金額と選び方は、それぞれの記事にまとめています。


制度そのものの対象工事や申請の流れは、こちらで詳しく解説しています。

金額の目安がつかめたところで、ここからが本題です。実家の工事は、この金額表よりも先に決めておくことがあります。
実家のリフォームは「5つの立場」を分けると揉めない

実家の工事でいちばん揉めやすいのは、次の5つが別々の人になることです。
| 立場 | ふつう誰になるか | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 家の所有者 | 親 | 工事の承諾を取っているか |
| 介護保険の被保険者 | 親(本人) | 申請者は本人。ここは動かせない |
| 工事の契約者 | 親または子 | 誰に請求書が行くか |
| お金を出す人 | 親・子・兄弟 | どの口座から誰の名義で払うか |
| 連絡窓口 | 子 | 追加工事を承認できるのは誰か |
着工前にこの5行を埋めておくだけで、あとの揉めごとはかなり減ります。順番に見ていきます。
契約者は親か子か|工事の規模で変える
介護保険を使う小規模な改修なら、契約者は親、子は「連絡窓口」と「支払代行者」として別に記載する形がいちばん整理しやすいです。
介護保険の申請者は本人でなければならないので、契約者も本人にそろえておくと書類の流れが素直になります。
ただし、これが絶対ではありません。子が数百万円の全面改修を発注して費用も負担するなら、発注者と契約者を子、建物所有者を親として、親から工事承諾を取る形のほうが実態に合います。
そのうえで、介護保険の対象になる部分だけ申請者を親にします。
意外に思われるかもしれませんが、いちばん面倒になるのは親子の連名契約です。連名にすれば安心という話ではなく、誰に請求するのか、誰の承認で追加工事をしてよいのかが決まっていない連名契約が、後からいちばん揉めます。
親本人の判断能力が低下していて、契約の内容を十分に理解できない状態のときは、「子だから代わりに署名する」で済ませないでください。代理権の確認や、成年後見制度の利用が必要になることがあります。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方の契約や財産管理を法的に支える制度です。該当しそうな場合は、工事の話より先に確認しておいたほうが安全です。
「そんな工事は頼んでいない」を防ぐ決裁ルール
遠距離の案件で必ず起きるのが、親と子から別々の指示が飛んでくる状態です。
典型的なのはこういう流れです。工事中に親が「ここにも手すりが欲しい」と言い、施工側はその場で付ける。後日、子が請求書を見て「そこは頼んでいない」となる。
誰が悪いという話ではなく、決裁のルールを決めていないだけです。
ですので工事前に、日常的な連絡は子が受ける、金額の変更をともなう指示は子の承認がなければ着手しない、というところまで決めておくことをおすすめします。これはリフォーム会社側にも伝えておいてください。
「○万円以上の変更は子の承認が必要」と一言添えるだけで、施工側も動きやすくなります。
親の預金から払うとき、施工側が確認していること
親の口座から支払うケースでは、施工する側もかなり慎重になります。
親本人が金額と工事内容を理解しているなら問題になりにくいのですが、「母の通帳から払います。本人には細かい話はしていません」と言われると、そのままでは進められません。
金額が大きいときに、私たちが押さえているのは次の5点です。
- 親本人へ、金額をはっきり説明したか
- 見積書と契約書を書面で残したか
- 子を正式な連絡窓口として記録したか
- どの口座から、誰の名義で支払うかを確認したか
- 通帳・暗証番号・現金の引き出しに、施工側が一切関与していないか
最後の1点は、施工側が自分を守るためのルールでもあります。通帳を預かってほしいと言われても、まず受け取らない会社を選んでください。
もうひとつ、領収書の宛名にも注意が必要です。自治体によっては、住宅改修の領収書を被保険者本人の名義で出すよう求めています。子が振り込んだからと何も確認せずに子名義の領収書をもらうと、申請の段階で止まることがあります。
この運用は自治体ごとに細かく違うので、着工前に必ず確認しておいてください。
子が大きな費用を出すなら、贈与税の確認も要る
ここは建築士の領分を超えるので、論点があることだけお伝えします。
国税庁は、親名義の建物に子が増築して親が対価を払わない場合について、親が子から増築資金相当の利益を受けたものとして贈与税が課税されるという考え方を示しています。
あわせて、子が出した資金に相当する建物の持分を親から子へ移して共有にすれば課税されない、という整理も示されています。
これは増築の事例なので、数万円の手すり工事まで同じ扱いになると一律には言えません。
ただ、親名義の家を子が数百万円かけて改修するのであれば、工事契約の前に税理士へ相談しておく話だとは思っています。工事が終わってから相談しても、打てる手は限られます。
兄弟間で費用をどう分ける|もめる家とまとまる家

お金の話は、工事そのものより後を引きます。ここは現場で何度も見てきました。
もめるのは金額ではなく「誰が決めたか」
兄弟間のトラブルは、金額の大小ではほとんど決まりません。決め方を共有していたかどうかで決まります。
よく見るのは、こういうパターンです。
- 同居している子が立て替え、あとで割ればいいと思っていたが誰も払わない
- 遠方の兄弟が、完成してから「そんな高い工事を勝手に決めたのか」と言い出す
- お金を出した子が「これだけ負担したのだから」と相続の話まで持ち出す
- 介護をしている子は介護の負担も考えてほしい、遠方の子は工事費だけ均等割りで、と前提がずれている
- 親の預金から払ったあとで、本当に親が希望した工事なのかと疑われる
どれも、金額そのものが原因ではありません。話が通っていなかったことが原因です。
見積もりを取る前に、家族のルールを決める
うまく進む家に共通しているのは、見積もりを取ってから兄弟に相談するのではなく、見積もりを取る前にルールを決めていることです。
細かい取り決めでなくてかまいません。たとえば「安全上すぐに必要な工事は30万円まで親の預金から出す。浴室の全面改修のような大きい工事は、見積もりを兄弟全員に共有してから決める」。
この程度でも、あとの空気がまるで違います。
逆に、見積書という具体的な金額が先に出てしまうと、話が「高い・安い」に寄ってしまい、決め方の合意ができないまま進むことになります。
工事を3段階に仕分けると話が進む
要望をひとまとめにせず、緊急度で3つに分けて並べると、兄弟の話し合いは驚くほど進みます。
- 今すぐ必要(転倒の危険が現にある箇所)
- できればやりたい(数年以内に必要になりそうな箇所)
- 見た目や快適性の改善(今でなくてもよい)
介護保険の対象になる工事だからといって、すべてが今すぐ必要な工事とは限りません。ここを混ぜたまま金額を出すと、兄弟の話はまとまりにくくなります。
1だけ先に着工して、2と3は次の帰省まで持ち越す。この進め方でまったく問題ありません。
親が「まだ必要ない」と言うときの入口

親の同意が取れずに止まる。これは珍しいことではなく、むしろ普通に起きます。
正面から「バリアフリー」と切り出さない
まだ自分で歩けている親ほど、一度は抵抗します。「年寄りみたいになる」という反応は、本当によく返ってきます。
「バリアフリー工事をしましょう」「介護用の手すりを付けましょう」と正面から言うと、身構えられやすいのです。
同じ工事でも、「介護のため」ではなく「今の家をもっと使いやすくする」という説明にすると、受け止め方が変わることがあります。
言い方を変えるだけの話ですが、遠距離だと説得の機会が限られるので、この一手間は効いてきます。
手すりより先に変えられるところがある
入口を手すりにしないほうが、うまくいくことがあります。
抵抗されにくいのは、こういうところです。
- 滑る玄関マットをやめる
- 夜間の廊下を明るくする
- 敷居の小さな段差をなくす
- 開けにくいドアを引き戸にする
- 浴室の入口の段差を改善する
どれも「介護のための工事」に見えないのが利点です。
手すりを勧めるときも、「将来のために」ではなく、本人に実際に立ち座りしてもらってから話すようにしています。「ここに手を置けると楽ですよね」と動作から入ると、納得されやすいです。
「転ぶ前」と「転んでから」では工事の質が変わる
ここは、はっきり違いが出ます。
転倒したあとは、退院日という期限が迫るので「玄関にも廊下にも浴室にも、とにかく付けてください」となりがちです。
ところが本人の身体の状態は、退院直後とリハビリが進んだあとで変わります。焦ってたくさん付けると、数か月後には位置が合わない手すり、結局使わない手すりが家に残ります。
転ぶ前なら、平常時の動きを見られます。
- 普段どこでつまずいているか
- 右手と左手のどちらを使うか
- 夜中にトイレまでどう歩くか
- 立ち上がるとき、何につかまっているか
これが分かっていれば、必要最小限を、適切な位置に入れられます。親が元気なうちに話を始めることには、費用面でもはっきりした意味があります。
帰省中に終わるのか|遠距離リフォームの段取り

結論から言うと、工事だけなら帰省中に終わることはあります。手続きから全部を3日でというのは、かなり厳しいです。
相談から着工まで1〜3週間を見ておく
介護保険の住宅改修は、工事の前に申請するのが原則です。順番はこうなります。
- 現地調査
- ケアマネジャー等による理由書の作成
- 見積書・図面・施工前写真の準備
- 自治体へ事前申請
- 確認・承認
- 着工
- 完成
- 施工後写真・領収書等の提出
すでに要介護認定が済んでいて、担当のケアマネジャーも決まっている。そのうえで手すり数本程度の工事であれば、相談を始めてから着工まで1〜3週間を見ておくと無難です。
自治体の審査にかかる期間、ケアマネジャーと施工会社の日程、商品の納期で前後します。
要介護認定そのものから始める場合は、さらに時間が必要です。認定の通知は、申請から原則30日以内とされています。
認定の結果を待てない事情がある場合、申請中でも住宅改修の事前申請を受け付ける自治体があります。ただし結果が「非該当」だったときは全額自己負担になることを了承したうえで、という条件が付くのが一般的です。扱いは自治体によって違うので、必ず事前に確認してください。
遠方に住んでいる方にお伝えしたいのは、帰省日に工事を合わせることはできる、ということです。ただし帰省してから話を始めるのでは間に合いません。
子が立ち会う優先順位は「金額を決める場面」が1位
全部の場面で帰省する必要はありません。優先順位を付ければ、帰省の回数はかなり減らせます。
| 優先 | 場面 | 子が立ち会う理由 |
|---|---|---|
| 1位 | 最終プランと金額を決める | ここを外すと後から全部ひっくり返る |
| 2位 | 現地調査 | 本人の動作を見て位置が決まる |
| 3位 | 完成確認 | 位置と使い勝手のずれに気づける |
| 4位 | 契約手続き | 郵送等で対応しやすい |
意外に思われるかもしれませんが、契約の立ち会いは優先度が低いです。書面のやりとりで済むからです。
逆に、現地調査で本人の動きを見ずに仕様を決めるのは避けたいところです。ここだけは、誰かが実際の身体の動きを確認できる状態にしてください。
立ち会えないときはオンラインと写真で補う
子が現地に行けない場合でも、やりようはあります。
現地調査の日に、本人・ケアマネジャー・必要に応じて理学療法士や作業療法士・施工会社が集まっていれば、子はオンライン参加でも十分に機能します。
完成のときも、帰省できないなら次の3点を送ってもらってください。
- 部屋の全景写真
- 施工した各箇所のアップ写真
- 本人が実際に使っている様子の動画
特に3つ目の動画が効きます。「帰省したら、思っていた位置と違った」という失敗は、これでほとんど防げます。
実家ならではの追加費用が出るケース

見積もりの段階では見えず、工事が始まってから出てくる費用があります。事前に知っておけば、驚かずに済みます。
手すりを付けたい壁に、下地がない
手すりの追加費用で最も多いのがこれです。壁がある=そこに手すりを固定できる、ではありません。
石膏ボードだけの壁に手すりを付けても、体重をかけた瞬間に抜けます。柱や間柱、あるいは下地の板が入っている位置でなければ固定できません。
付けたい位置に下地がなければ、壁を開けて補強を入れるか、板を張って面で受けることになります。ここで数万円の追加が出ます。
写真だけで見積もりを確定できないのは、この下地が写真に写らないからです。
床や浴室を開けたら、傷んでいた
築年数の経った実家では、これが起きます。
特に多いのが浴室です。段差をなくそうとして床を解体したら、土台が腐っていた、シロアリの被害が出ていた、というケースは実際にあります。
浴室の段差解消は、防水と排水にも手が入る工事です。同じように、引き戸への交換は壁・スイッチ・枠まで直すことになりますし、狭いトイレで介助スペースを取ろうとすると便器の位置まで動かすことになります。
遠方や山間部だと、出張費や小口工事の割増が乗ることもあります。解体してみないと分からない部分がある工事では、追加が出る前提で予算に幅を持たせておいてください。
介護保険の手続きを軽く見ると、全額自己負担になる
これがいちばん怖い追加費用です。金額が丸ごと自己負担になります。
介護保険の住宅改修は、施工の技術だけでなく書類の段取りが要ります。施工前の写真、見積の内訳、理由書との整合、工事内容を変えるときの再確認、施工後の写真、領収書。ひとつ欠けると支給されません。
事前申請したあとで工事内容を変える場合、自治体への届け出が必要になります。届け出のないまま新たな改修や増額をすると、その部分が支給の対象外になることがあります。
「手すりくらい、すぐ付けますよ」と申請の前に施工してしまう会社には特に注意してください。着工が先になった時点で、その工事は対象外になり得ます。悪気がなくても、制度に慣れていないだけで起きます。
もうひとつ、遠方の子が見落としやすいのが地元での対応力です。ネットで探して大きい会社を選びがちですが、小さなバリアフリー工事では「半年後に手すりが少し緩んだとき、すぐ来てくれるか」がかなり効いてきます。
工事費が2万円安いことよりも、親だけになったあとの対応力のほうが大事になる場面は少なくありません。
まとめ|実家のバリアフリーは「着工前」で決まる
実家のバリアフリーで時間がかかるのは、工事そのものではありません。着工前の家族の合意と、介護保険の手続きです。
この記事の要点をまとめます。
- 所有者・被保険者・契約者・支払う人・連絡窓口の5つを、着工前に分けて整理しておく
- 金額の変更をともなう指示は誰の承認が必要か、施工会社にも伝えておく
- 見積もりを取る前に、兄弟間のルールを決める
- 親には「介護のため」ではなく「今の家を使いやすくする」と切り出す
- 介護保険を使うなら相談から着工まで1〜3週間。帰省してから始めるのでは間に合わない
- 子が立ち会う優先順位は、契約より「金額を決める場面」と「現地調査」
手すりの位置は、図面だけで決めるものではありません。本人が普段どこにつかまり、どちらの手で立ち上がっているかを見るところから、現地調査は始まります。
それを見てくれる会社かどうかは、見積もりを取る段階で分かります。
介護保険を使う工事は、制度に慣れているかどうかで結果が変わります。施工前写真や理由書との整合を当たり前にやっている会社を選んでください。複数社から見積もりを取れば、その差はすぐに見えます。
制度の詳しい中身は、こちらにまとめています。

箇所ごとの費用と選び方は、それぞれの記事をご覧ください。


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